Ⓒ佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
映画『すばらしき世界』
■監督・脚本:西川美和
■出演:役所広司、仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、
北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美
■配給:ワーナー・ブラザース映画
◎2月11日(木祝)より福岡中洲大洋、T・ジョイ博多、
ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13、ユナイテッド・シネマ福岡ももち他にて公開
演じるのは出所したある元犯罪者の半生
「すばらしき世界」と聞いて、あなたはどんな世界を思い浮かべますか? 役所広司さん主演の映画『すばらしき世界』は、社会や人の在り方を問う作品です。
殺人罪の服役を終え、刑務所を出所する三上。二度と塀の中には戻らないと心に決め、身元引受人である弁護士・庄司の支援の元、新しい暮らしを始めます。そんな三上の元に現れたのは、三上が更生して生き別れの母と再会するテレビドキュメンタリーを撮りたいという津乃田。さらにケースワーカーや近所のスーパーの店長なども交え、三上は社会復帰するために動きますが…。
本作は実在する男をモデルに描いた、佐木隆三の小説『身分帳』が原案の問題作。役所さんは、原作での主人公について最初は「嫌な奴」と感じたそう。
「彼は大変な罪を犯しておきながら、俺は満期出所だ、まっさらになったんだと色んなことを要求するんですね。こいつ、人を殺しておいて反省してんのか、と。原作は事実に忠実に書いていることもあって、力強い本ですが、主人公に共感できないところもいっぱいあるんです。映画ではそこも人間臭さにつながるところだと、おかしみにつながるところがあるのかもしれないと思いました」
正しさとは何かを問う生き方に感じるもの
意に沿わないことがあると、すぐに激高してしまう三上。その姿に、観ている側は思わず自分とは一線を画す存在だと感じます。しかし、次第に三上のあまりにも真っ直ぐ過ぎる言動に、反対に自分たちは正しいのかと自問させられていきます。
「この人の正義感ですね。まぁ、ちょっと危うい正義感ですけど(笑)。チンピラに絡まれているサラリーマンを助けた後、津乃田と電話で喋る中で三上は『善良な市民がリンチにあっているときに見過ごすのがご立派な人生ですか?』と問いかけます。塀の外の人間としては日常で見て見ぬふりして見逃していることがいっぱいあるんで、グサッとくる。彼の正義感は、誰が教えてくれたものなのかはわかりませんが、なかなか生きづらいんですよね」
役所さんの言葉通り三上の生き方は衝突を生み、周囲の人間をやきもきさせる。
「この作品には善意の人たちがたくさんいるんですけど、その人たちも単純に全員が全部、善意の人かというと、そうじゃない。その辺りも人間としてリアリティーのある人たちの集まりかなと思います。周りは『前科者なんだからおとなしくしとけよ』って、思うんだけどそうはならない。人間として触れ合うことで、なんとなく親身になっていくところが面白く、それが希望につながる人間の関係性かなと思います。普遍的な人間の温かさを描いている作品ですね」
他者に対して、無関心や不寛容になりがちな今の時代だからこそ、観て感じて、自分の心の内をのぞいてみませんか。
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki