面白い話の裏には悲しい話がある
植木等さんと小松さん(写真は本人よりご提供)
「♪しーらけどーりー」「どおして、おせーて!」
数々のギャグを輩出した博多出身のコメディアン、小松政夫さんの著書『みーんな ほんなごと!』が好評だ。全編博多弁の本作にしたためられているのは、小松さんの半生。読者からは「笑って、泣けました」という声が寄せられている。小松さんに話を伺った。
「この本は、他の人は一切手を入れていませんから、正に僕自身が表された本ですね。だから、読んでくれた人がそういう風に言ってくれるのが、一番うれしい。コメディアンの神髄というのは、笑わせるだけでなくて、最後にホロっと泣かせること。この本もコメディアンである僕の視点で書いているので、そういう気持ちが表れているのかもしれないですね。面白い話の裏には悲しい話があるよ、と」
私たちが知るギャグも、そんな悲しみから生まれている。例えば、本作でも紹介されている、あるギャグの誕生秘話。
「真冬なのに作業ズボン一丁で、酔っぱらってフラフラしているおじさんがいる。このおじさんは、もしかしたら北国のお父さんで、農閑期の出稼ぎに来ているのかもしれない。それで、つい故郷が恋しくなってお酒を飲んでハメを外したのかなって想像してしまいましてね。おじさんは小さな声でこうも言うんですよ。『もうイヤ…こんな生活』って。このフレーズは私の宝になりました。これが僕の視点ですね」
打ち込む姿が愛されて、今がある
本作では小松さんが付き人をしていた植木等さんをはじめ、ハナ肇さん、谷啓さんら先輩芸能人たちとのエピソードに何度も心を打たれる。そこには美辞麗句はなく、思いやりと行動で小松さんを支える多くの姿があった。
「僕ごときを、みんなで押し上げてくれましてね。やってもらったことを思い出すと、ありがたくて涙が出ますよ」
諸先輩たちからの愛情について、小松さんはこう話す。
「仕事に打ち込んでいるということが伝われば、かわいがってくれるんじゃないかな。この歳になっても、いまだに働いていられるというのはね、皆からかわいがられたってことでしょうね。植木にはこんなことも言われました。『お前の物マネがうまいっていうのは、観察力が鋭いということだよ。いいことだ。でも、お前は俺じゃないんだから、植木等のようにならなくていい。お前は小松政夫なんだから』。そういう教えもありましたね」
先輩たちだけではない。昨年の山笠では、最も名誉なこととされる「台上がり」をつとめた。これは故郷、博多の人に小松さんが愛されているということに他ならない。
「今年は帰れませんでしたが、毎年山笠のために帰ってきています。山笠ではハチマキの色で役職が決まっていたり、統率されていて実に爽やか。博多は人情に厚くて、女性も優しい。自慢の博多ですよ」
故郷への思いは、本作にも溢れている。こんなときだからこそ、温かさ伝わる本を手にしたい。
書籍『みーんな ほんなごと!』
■著者:小松政夫
■発行所:株式会社さくら舎
■定価:1,500円(税別)
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki