長野五輪スキージャンプ金メダル獲得の秘話
映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』
■監督:飯塚健
■出演:田中圭、土屋太鳳、山田裕貴、眞栄田郷敦、小坂菜緒(日向坂46)/濱津隆之/古田新太
■配給:東宝
◎近日公開
ⓒ2020映画『ヒノマルソウル』製作委員会
1998年冬。当時日本中を釘付けにした、長野五輪スキージャンプ団体戦のことを覚えているだろうか。
1本目のジャンプを終え、日本は4位。メダル獲得へ向けて2本目のジャンプへ進むはずが、猛吹雪で競技は一時中断。再開のための条件は「テストジャンパー25人が無事に跳ぶこと」。今回紹介する映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』は、日本が金メダルを獲得した裏で命をかけて跳んだテストジャンパーの物語だ。
主演をつとめたのは、俳優・田中圭さん。94年のリレハンメル五輪スキージャンプ団体で銀メダルを獲得した実在の人物、西方仁也さんを演じる。西方さんは長野五輪でも活躍が期待されたが、怪我のため落選。テストジャンパーとして競技のサポートに回ることとなる。
台本をもらった当初、田中さんは事実を大げさに脚色したものだと考えていた。だが、撮影途中で西方さん本人に会ったことで、その印象は変わる。例えば、長野五輪で原田さんの競技中に西方さんが「落ちろ」とつぶやくシーン。リレハンメルでは競技に失敗した原田さんへの複雑な思いが込められている。
「僕の勝手な感覚で『そこまでは言わないだろう』と思っていました。でも、西方さんにその思いをぶつけると、『言葉にはしないけれど、思っていないかと言えば嘘になるよ』と言われて。すごく人間らしいと思いました。いいところも、悪いところも含めて。でも、『落ちろ』という本心も、100%その気持ちだけかと言えば、そうではないです。普通、台詞は誰かを思う気持ちや葛藤を表現するときも、会話劇として成り立たせるために、相手とキャッチボールが出来るようになっています。だけど、今回は会話だけではなく、西方が一人で揺れ動くシーンでのモノローグとしても使われていて。だから、台詞が表裏一体です。原田たちに金メダルを見せてやるという言葉も本心ですが、そこには不安があります。テストジャンパーの皆と仲良く会話しているけれど、それは自分の居場所は選手ではなくて、テストジャンパーなのだと認めていることになるのではないかという葛藤があったり。とても人間らしい役だったと思います」
皆、それぞれの 人生の主役を生きる
映画の主役というと華々しいヒーローを想像するが、今回の主役はヒーローたちを陰から支えた謂わば裏方。演じる上で、気にかけていたことは?
「あまりないです。元々、主役や脇役という感覚は僕にはないですし。西方さん以外のテストジャンパーも、結果としてはテストジャンパーですが、皆そこに自分の人生をかけているだけなので。誰しもが、その人自身の人生の主役です。西方さんも皆を支えるために生きているわけではないし、自分の限界や運、家族、コーチ、仲間と、ただただ向き合った結果が世間から見ると裏方であっただけだと思います」
市井を生きる人のほとんどは脚光を浴びることはない。だが、それぞれの人生で闘い、主役として生きている。コロナ禍の影響が残る今だからこそ、陰のヒーローたちの闘いに触れたい。
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki