福岡は「コーヒーの街」 個性あふれる〝純喫茶〟健在
福岡市は個性あふれる喫茶店がひしめく「コーヒーの街」です。国際的な評価を受けた焙煎士や、おいしいコーヒーを入れる技術を持つバリスタが多く存在します。
喫茶店と言えば、近年は国内外の大手チェーンが地方でも相次いでオープンし、昔ながらの純喫茶は減っている…そんなイメージを抱きがちですが、どっこい福岡ではそんなことありませんよ。
繁華街や住宅街に店を構え、常連さんが集まる名店。クラシカルな内装にアンティークな装飾品が置かれ、人気のオリジナルメニューを提供する。そんな「昭和レトロ」を感じさせる店はまだまだ健在です。
コーヒーマイスターの資格を持ち、長年、カルチャースクールでコーヒー講座の講師を務めている平田隆文さん(68)は「昔を懐かしむ中高年は多い。一つとして同じ店がなく、フルサービスがモットーの〝純喫茶〟の需要は、今後も続きます」と予測しています。
加えてインスタグラムやツイッターなどのSNSの登場で喫茶店の敷居が低くなり、近年、若者が利用するケースが増えていると分析する関係者もいます。
福岡市の水道水はおいしいコーヒーを入れるのに適しているそうです。海の中道海浜公園では今年も4月22、23の両日、「福岡コーヒーフェスティバル」が開催され、多くのコーヒー愛好家たちが集まりました。
喫茶店の各テントはどこも行列
来場者にコーヒーを振る舞う平田隆文さん
コーヒーの焙煎を楽しむ親子
写真4枚は「福岡コーヒーフェスティバル」から
個性派の名店揃い。福岡の喫茶4軒を満喫
数ある名店の中で人気の喫茶店4軒をはしごしました。
■珈琲 伊藤
修猷館同窓生の「心の故郷」 蝶ネクタイの父子がおもてなし
伊藤康男さん(右)と長男の稔さん
立修猷館高校の正門近く。午前9時半、蝶ネクタイの2人が迎えてくれました。伊藤康男さん(77)と長男の稔さん(50)。店内は女性客でにぎわっています。
1977年、康男さんが32歳の時、この店を構えました。翌年、福岡市は大渇水に見舞われましたが、近くの井戸水の使用を許され、常連客だった修猷館高校卒の浪人生たちが毎日のように水くみを手伝ってくれ、ピンチをしのいだそうです。
以来、修猷館の同窓生とは切っても切れない関係に。当時の学生たちも還暦を過ぎる年になりましたが、今でも帰省すると、店を訪ねて来る人が絶えません。「だけん、ゴールデンウイークも盆も正月も休んだことはなかです」と康男さん。
稔さんは結婚を機に福岡に戻り、97年から店を引き継ぎました。稔さんにも大手のカフェチェーンで働く息子(26)がいます。
「後継者難で苦労する喫茶店は多いが、『伊藤さんの店は安泰やね』とよく言われます」。康男さんがとびきりの笑顔で話してくれました。
人気のホットプレスサンド(700円)
福岡市早良区西新5-1-35
[営]8:00~21:00 29席
[休]毎週木曜
☎︎092・823・0325
■琥珀館
愛煙家たちの「楽園」喫茶 お奨めはリゾット風の「ライスカレー」
名物のライスカレーを運ぶ坂野輝子さん
多祇園山笠で知られる櫛田神社の近くに愛煙家たちの「楽園」とも呼べる喫茶店があります。「琥珀(こはく)館」。入り口に「喫煙可能店」の看板が掲げられ、20歳未満と子連れの人は入店できません。
福岡市でも禁煙区域が拡大し、愛煙家たちは肩身の狭い思い。しかし、ここでは堂々とタバコが吸えるため、昼休みには、愛煙家のサラリーマンが続々と集まってきます。
店主は坂野輝子さん(75)。9年前に他界した夫の明彦さんは元専売公社の職員でヘビースモーカーでした。1983年、別の人がやっていた店を坂野夫妻が引き継ぎ「琥珀館」と名付けました。
琥珀色の店内には漫画本やスポーツ新聞が置いてあり、昔ながらの喫茶店です。メニューはカレー、ハヤシ、ピラフ、サンドイッチなど80種を超えます。お薦めはライスカレー(980円)。濃厚なソースとピラフをまぜたリゾット風のカレーでトッピングの生卵との愛称は抜群です。愛煙家でなくても、食べたくなります。
カウンターの各席に灰皿がある
福岡市博多区上川端町1-6
[営]平日 11:00~19:00、土・祝11:00~18:00 45席
[休]毎週日曜
☎︎092・281・7578
■珈琲舎のだ
「馬蹄形のカウンター」が自慢 お客さんと店員の距離感大切に
馬蹄形のカウンターが特徴的
店に入ると、馬蹄(ばてい)形のカウンターが目に入ります。15人が座れて表面にお客さんがくつろげるよう肘おきのくぼみが付いています。座ると、サイホンでコーヒーを入れる一連の作業を目の前で見ることができ、心地よい香りが店内に広がっています。
「お客さまと店員の適度な距離感が大切。親しさは大事ですが、べったりもダメ。ホテルマンのような接客を心がけています」と赤星敬一社長(46)。
喫茶業は赤星さんの義父・野田光彦会長が57年前に始めました。赤星さんは建設会社の現場監督をしていました。結婚当初「(喫茶店は)やりません」と伝えていましたが、15年前「やってくれないのなら、のれんを下ろす」と義父に言われて転身を決意しました。
赤星さんは系列店で菓子作りを必死に学びました。純喫茶の本店だけでは「将来が厳しい」として、天神のソラリアプラザや博多駅の阪急百貨店にカフェを出店し、女性客の人気を集めています。元現場監督の社長は経営者としての才能を存分に発揮しています。
サイホンでコーヒーを入れる、香りが何とも言えない
福岡市中央区大名2-10-1-A-110
[営]平日 9:00~19:00、日・祝日 10:00~19:00 30席
[休]毎週水曜
☎︎092・741・5357
■コネクトコーヒー
お得感2倍のコーヒー 世界2位「ラテアーティスト」の店
熱したミルクで絵を描く安藤さん
天神の中心街から少し離れたビルの1階に「コネクトコーヒー」があります。カウンターにはトロフィーと盾がところ狭しと並んでいます。
オーナー兼バリスタの安藤貴裕さん(36)が獲得したものです。世界最高峰の「コーヒーフェスト」2014年東京大会で2位になるなど著名な国内大会で優勝したこともあります。
安藤さんはすご腕の「ラテアーティスト」で店は2017年9月にオープン。ラテアーティストとは、コーヒーの表面に熱したミルクを注いで絵を描くバリスタのことです。ミルクピッチャーを細かく動かして白鳥やタツノオトシゴ、バラやサクラなどの動植物をきれいに描いてくれます。
カフェラテを注文。安藤さんは機械で熱して泡状になったミルクをコーヒーの表面に注ぎます。30秒も経たないうちに湖面を泳ぐ白鳥が浮かび上がりました。飲むのがもったいないと思いましたが、熱いうちに一気に飲むのが良いそうです。見て楽しみ、飲んでまた楽しめる。お得感2倍のコーヒーでした。
白鳥が浮かぶカフェラテ(570円)
福岡市中央区天神5-6-13
[営]平日 12:00~20:00、日・祝日 11:00~18:00 15席
[休]毎週火曜
☎︎092・791・7213